MINOTAUR INST. × THINK AND SENSE 「最終ゴールはムーブメントを作ること」
松山周平/ Shuhei Matsuyama 1991年生。ビジュアルアーティスト&プログラマー。株式会社ティーアンドエスではTHINK AND SENSEの部長を務める。先端技術を生かした展示やアート、インタラクティブなパフォーマンスを得意としており、マイクロソフトのMRデバイス『HoloLens』を活用した『Pokémon GO AR展望台』『AR Roppongi x Ingress』などに携わる。クリエイティブレーベルnor所属。著書に『Visual Thinking with TouchDesigner』がある。 |
「やりたいことは次の時代のストリート感を模索すること」
──普段はTHINK AND SENSEのマネージャーとして働いている松山さんですが、MINOTAUR INST.とコラボレーションするきっかけはなんだったのでしょう?
僕は普段、テクノロジーを駆使した新しい体験を作るということを仕事にしています。
特にこういった領域は、現在進行形で進歩し常に新しい表現が生まれている業界でもあります。XDという言葉に代表されるように、デジタルを一つのツールとしてとらえ、既存のものをアップデートする技術革新としてのテクノロジーの在り方ももちろんですが、テクノロジーを駆使した作品の制作を通して、様々なテクノロジーとのかかわり方について考えている立場でもあります。
今回、MINOTAUR INST.とのコラボで採用している手法は『ジェネレーティブアート』の手法の一つです。ペンを使って絵を描く人がいるように、僕らはプログラムを使って映像や絵を作っています。その僕の作品の一部がMINOTAUR INST.の泉(栄一)さんの目に留まったことがきっかけです。
ジェネレーティブアートという手法は、映像や絵を生成するシステムを構築し、そこに入力される『素材』となるデータによって、生成させれる絵が変わって行くという手法です。つまり、これ自体には意味性はなく上述の『ペンで絵を描く』という手法となんら変わりがありません。
こういった手法を通した制作の中で日々感じていたものは、手法自体には意味がないものですので、『作品』としてのレベルに押し上げるためには、『素材』としてのデータと『ペン』としてのシステムに意味とストーリーが必要だと考えていました。
その時に出会ったのが、MINOTAUR INST.の泉さんでした。ファッションというアウトプットの形に嵌めるためには、様々な意味や意図のデザインが必要になります。そこに向けてシステムをデザインし、意味のあるデータを用意することで作品としてのレベルのものが作れるのではないかと思いました。また、MINOTAUR INST.はアーバンというテーマを持ったブランドですので、新しいデザイン手法を使ったクリエーションを行うことで、次なるアーバンやストリート感というものにたどりつけるかもしれない、という先の期待感もありました。
──MINOTAUR INST.とは2018年から毎シーズンコラボレーションしています。『ジェネレーティブアート』が一貫したデザイン手法であることは分かりますが、どのようにデザインを考えていますか?
MINOTAUR INST.からは『都市』などのコンセプトはもらいますが、割と雑談の中から生まれることが多いですね。1シーズンに一個ずつ、それぞれコンセプトを持ってTシャツを作っています。例えば、19AWでは他者から見たオルタナティブな都市を取り扱っていて、構築されたグラフィックのベースは、#ShibuyaのハッシュタグでInstagramに投稿された無数の写真から構成されています。
僕たちは会社があるから毎日渋谷に来ていますが、今の世の中では実際に渋谷に来る人よりもSNSやテレビを通じて渋谷を見る人の方が多いと思います。直接自分の目で見た渋谷ではなく『他者の目』としての、メディアやインターネットを通して見たものなのかもしれません。19AWでは、その無数の他者の視点から構築されるオルタナティブな渋谷をグラフィックとして生成することに挑戦しました。特定の誰かではなくて、アノニマスな大量の視点から作られることに今っぽさがあるかなと。
──なるほど。
ファッションだから、テックだからというのは手法の話であって、僕たちがやりたいことは次の時代のストリート感を模索することです。いわゆる『ストリート』はスケボーで街を滑ったり、バンクシーのようにスプレーで絵を描くイメージですが、『一個先のストリートってなんだろう』ということを僕たちはこのプロジェクトで考えています。
都市との関係性の中で現れるストリート文化といえど、今の時代その場所や現場に行く必要が必ずしもあるとは思えなくなりました。テクノロジーの進化により都市と人とのかかわり方が大きく変わっていて、これは大きな変化点だと思います。単純に仕事がリモートになったという話とは別で、サイトスペシフィックでなければ成立しなかったカルチャーが場所性を捨てるというのは全く別物としてとらえて良い、次の次元なんじゃないかなって。そこの変化から生まれる表現を通して、次の時代のストリートを追いかけています。
──物理的な場所性を超えたストリート感とはどういうことでしょう?
最近のちょっと変わったムーブメントだと、Twitterの140文字の中にプログラムを打てるように自分でハックして、そこで映像を作るというのが流行っていました。それって街のイケている場所を見つけてスプレーで絵を描くことと行いとしてはほとんど一緒で、心持は完全にストリートです。そういった物理的な要素にとらわれない、ストリート感という概念の片鱗をプロダクトアウトしようという試みが、グラフィックTシャツを作っているコラボレーションです。また、プロダクトとしてそこにパッケージングすることにこだわりがあるわけではありません。
TシャツもあればARを使った企画も考えているし、音楽や映像とのコラボレーションも進めています。ある種、カルチャーというのは一つの表現から生まれるのではなくて、いくつもの多角的な活動の中から自然に醸成されるムーブメントだと思います。例えば音楽だと一つのジャンルができるまでの過程で誰かが「俺はロックだ」と言って生まれたわけではない。その人の音楽をフォローしたり評価する人が出てきて、次第にその音楽を好きな人が集まる場所ができる。
つまり、今回はファッションとテクノロジーというカルチャー同士の掛け合わせで『新しいカルチャー』を作りましょうというプロジェクトです。テクノロジーで作るファッションを生み出したいわけではないので、端的に言うと技術革新ではないテクノロジーの使い方をしています。プロダクト作るという作業は中間地点であって、最終ゴールはムーブメントを作ること。僕たちが作ったような洋服を着ている人たちがいて、その人たちが繋がりを持ち、テッキーな面白ことをしている。そんな状況まで行くと面白いと思いますし、それが目標です。
<つづく>